図書街

本と人が暮らす

作者:早矢仕 知里

作品について
市民が知的欲求を満たし、学習する上で重要な図書館だが、特有の静けさや感染配慮による利用制限等により本の貸し出し数の減少が見受けられる。一方、巣篭もりの影響で読書への関心が高まり、読書自体の需要は減少していない。
そこで本研究では、社会状況に適した読書空間を維持し、人々と図書館の新たな関係を築く「図書街」を提案する。本を雨や日光から守る屋根のある環境、アーケード商店街に複数の読書空間を展開し、商店街全体を図書館化する。商店街での買い物や通行人等、街の多くの人が行き交う身近な距離に本が存在することで、人々の生活ルーティーンに、”ついで読み”や”ついで借り”といった読書体験が加わる。
全ての本には指定の返却場所が無く、図書街内であれば、借りた本棚とは異なる都合の良い本棚へ返却することができる。この仕組みによりジャンルを問わず本がシャッフルされ、利用する毎に本との一期一会の出会いが生まれる。
本との出会い方・過ごし方が変化し、新しいライフスタイルをつくる「人と本が暮らす図書街」。これにより、かつては短時間で終了していた目的が、本と過ごす時間により商店街内での滞在時間が増え、商店街の活性化にも繋がる。そして、書物の保管のみに限らず街の住民が本と関わるために足を運ぶ「図書街」の空間デザイン提案である。
受賞理由
衰退化が進む「図書館」と「商店街」を組み合わせ、神保町古書街における本と人の関わりや、敷地として設定した商店街の細やかなリサーチをもとに、モノの売買だけに依拠しない新たな商店街像を提示できた点が高く評価された。
インターネットで検索すれば何事も調べられてしまう現代社会だが、各個人が好ましい情報しか摂取しないことで起きてしまう隔たりも大きな問題として捉え、商店の専門性とのリンクや、蔵書のシャッフルといったアイデアによって、情報との新たな出会い方をデザインし、結果として新たな公共空間の在り方を示すことができた。
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INTERVIEW

受賞者の方に、インタビューしました!

Q1.あなたの作品のアピールポイントを教えてください。
A.商店街と本棚の関係がポイントです。図書街の定義のうち、「本の保管場所」「人の滞在場所」は図書館のための条件です。しかし、最も重要なのは、現地の状況を形状に反映させる「配置場所との関係」です。例えば、図書街唯一の空き地を屋外読書として活かすこと。自転車での通行が多いために乗車した状態での利用ができること。このように、人と本、本と街 と繋がりを持ち、本棚が商店街から孤立しない図書街が成立されています。
Q2.卒業制作の動機は何でしょうか?
A.図書館に目を向けたのは、外出自粛が始まりです。外出の機会が減り、巣篭もりを充実させるために、自宅近所の図書館で本を借りたいという気持ちが強くありました。しかし、書架間隔の狭い箇所での人との密接や、古くからある図書館により堅苦しい空気感であることが気になりました。そこで、感染症により人の意識や感覚が一変した今後も、学びの多い図書館を人に求められる存在として維持することが必要だと考えました。

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Q3.あなたがクリエイティブで大事にしていることはありますか?また、それを制作にどう活かしましたか?
A.自分が面白いと思えるものであるのはもちろんですが、世の中の人から見て価値があるかどうかは常に頭の片隅に置いています。今回の卒業制作では、計10個の読書空間があります。その中で、見つめ直す時間を頻繁に設けることで、10個全てが 何のために・誰のために 作っているのかという大事な軸を保っています。これにより、一つ一つが異なる個性を持ちながらもまとまりのある、「利用者のための図書街」が完成したと思います。
Q4.今年は、オンライン授業に切り替わり、これまでの環境とは大きく異なる中での卒業制作でした。制作で苦労したことや、取り組み方などを教えてください。
A.オンラインを利用して意見交換を頻繁に行っていたため、強く苦労を感じることはありませんでした。ですが強いて言うなら、ふとした時に相談できる相手が周りにいないことにつらさを感じました。取り組みとしては、月に3回程状況の報告のために遠隔で資料の提出をしていました。進捗が目に見える上に、内容も頭も整理されることで、この1年間本質を忘れずに制作を進めることができました。
Q5.今後の後輩たちに向けて、卒業制作を行う上でのアドバイスがあれば教えてください。
A.頭で完成された後に初めて模型に取り掛かるのではなく、考えるために手を動かしてほしいです。私自身、前期は自宅でしたが、後期は毎日大学に来ていたため、手を動かす機会が格段に増え発想の質が上がったのを感じました。このご時世なので、必ず大学で作業した方がいいとは言えませんが、手が止まってしまう人は大学に来ることも一つの手段だと思います。最後に、苦しい思いもすると思いますが、ぜひ楽しんでほしいです!

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